Column エジプト文化交流4
ピラミッドのラクダ隊
(Nadia)

●最初のピラミッド・ラクダ隊との遭遇
 どのガイドブックにも忠告が載っている悪名高きピラミッドのラクダ引きですが、私がそれを実感したのは、4度目の来エジであり、兄貴と一緒に初めてのエジプト・バックパック旅行のときでした。
 バックパッカーとしては大先輩の兄貴ですが、エジプトは初めてということで、「カイロに到着したらまずピラミッド!」と、私は得意げにタクシーに乗り込みました。
 値段交渉も順調に終え、しばらく走っていると助手席に新しいお客が。「エジプトは乗り合いOKの国だから……」と、またしても知ったかぶる私。そのうちにその助手席の客、20代前半の若いおにーちゃんが「ピラミッド行くの?」「エジプトは初めて」……と親しげに話しかけてきました。とてもフレンドリーで、親切そうなおにーちゃん。すると、「今ピラミッド周辺は、修復のため入れないんだよ」と教えてくれました。
 実は私は日本の新聞で直前に、ピラミッドエリアの環境汚染が進んでいるので、周囲に壁をめぐらし、立ち入り制限をするというような記事を読んでいました。そんなこともあり得るのかな〜、とおにーちゃんに感謝していると、さらに「うちはピラミッドのすぐ横だから、庭から入れるから大丈夫。入場料も無料だしね」と温かいお言葉。
 言われるままに、彼のお宅にお邪魔すると、そこにまっていたのは「ラクダ!!!」。そして、「安くしとくから〜」のセリフ。だれも値段なんて聞いてないよ〜。でも、結局、入れないよりはマシかと思い(ここにきても入れないという言葉を信じていた)、値段を交渉。値切れたので、まあ1度ぐらい記念だからいいかと納得して乗ることに…。
 いざ、出発! すると5分もたたないうちに、ポンドで交渉したはずが、ドルで払えと言い出した。ラクダの上から憤慨する私たち。「もう、降りる!」と強気で言うわりには、自力では降りられない〜と嘆く2人。降ろしてもらえないまま、ラクダの上で再び値段交渉。もう2度と引っかからない、と固く誓ったのでした。

 けれど、これには後日談。ルクソールなど各地の観光を終え、再びカイロに戻った私たちは、帰国前にちゃんとピラミッドに入ろうということに。タクシーに懲りたため、今度はセルビスに乗車。しばらく走ると、次々お客さんが乗り込んでくる。けれど、今回はへんな客引きに引っかかる心配はないと思っていると、一人の乗客が振り向き「ピラミッド行くの?」と声をかけてきた。……と、思わず固まる3人。なんと先日のおにーちゃんだった。私たちは不機嫌な顔で「もう1回ピラミッドをちゃんと見に行くんだよ」とイヤミを言ってみる。するとニヤっと笑って「クレバー」だねのひと言。
 唖然とする私たちに手を振りながら、彼はセルビスから降りていきました。

●5度目のピラミッド・ラクダ隊
 その後も、仲良しのタクシードライバーにラクダ隊に乗せられたり、友達と一緒に引っかかったり度々していますが、それはまあ無理矢理ではないので省略。5度目のラクダ隊との遭遇は2002年正月、こんなにエジプトに来ているくせに……という状況下での出来事でした。
 最近、実はピラミッドには近づかないようにしていた私。けれど、ヘテプヘレスや周辺の貴族の墓に行きたいので、久しぶりに一人でピラミッドに行くことにしました。もちろん絶対にラクダ隊に声を掛けられても近づかないことを心に誓って。
 入口からチケットを買い、とりあえず貴族墓らしきものがある方向に歩き出した私。
「どこいくの〜?」
「ピラミッドはそっちじゃないよ〜」
「そっちはなにもないよ〜」
 案の定、ラクダに乗ったオヤジたちに声を掛けられまくる。もちろんムシ! 視線を合わせず、声も聞こえない振りで、ひたすら自分のガイドブックだけを見る。けれど、正直どこになんの墓があるのか、まったく分からない私。仕方がないので、ラクダには乗らないぞ!と自分自身に強く言い聞かせながら、「おじさ〜ん、この墓はどこ?」とラクダ・オヤジに声をかけました。
「お〜、それは遠いよ。ラクダ乗っていきなよ」
と親切めかしく言うオヤジ。
「イヤだ!(偉いと自分で誉めた)道だけおしえて」
 私の迫力に押されたのか、わかったよ、というそぶりでとりあえず道だけ教えてくれることに。
 テクテクテクテク、テクテクテクテク……
 道案内のラクダが歩く横を、あくまで徒歩でついていく私。
「乗れば?」
「乗らない!」
 テクテクテクテク、テクテクテクテク……山あり、谷ありのアップダウンの激しい砂漠をひたすら歩く私。
「もういいから乗っておいきよ」
と言ったかどうかは正確には不明だが、しびれを切らしたオヤジがタダで乗せてくれることに。
 乗った途端に、すっごい勢いで走り出すラクダ。ギャーッとわめきながら必死でつかまっていると、ピラミッドからだんだん遠ざかっているのに気付きました。
「あれ? 貴族の墓はピラミッドの近くのはずだよ」
と、周辺のそれらしき地域を指さす私。
「大丈夫、大丈夫。あそこは観光客は立入禁止なんだよ」
そうか、そうかと納得する私。でも、だんだんとピラミッドが豆粒になってくる。すると突然ラクダが止まり「写真撮るか?」……そうです、おなじみのこのパターンです。写真を撮れば、即バクシーシ。これは永遠不滅の彼らのパターンです。即刻「墓に行くんだ! 帰れ!」と怒鳴る私。
「でも、あっちに3つのピラミッドが見える……」
「帰れ!」
あっちに3つのピラミッドが見える、記念撮影に最適な場所があるんでしょ、知ってるよ、毎回行ってるよ!!! 戻ってみると、スフィンクスに近いところで降ろされる私。で、結局貴族の墓はどこなんだ? ヘテプヘレスは? と聞いても、知らないようで、再び憤慨! それどころか、「50ポンド」と金を請求するオヤジ。いかに騙されようとも、乗ってしまったからには自業自得。バクシーシを払うのが私の主義なのですが、それでも思わず溜息をつかずにはいられませんでした。あれほど引っかからないと誓ったのに、なぜこうなったんだ???

 ちなみに、その後、自力で歩いて探して墓を見学しました。

 さらにこの旅行では奇妙な出会いがありました。この時、私はギザ・シティのホテルに宿泊していましたが、地下鉄ギザ駅周辺を散歩(迷っていた)していたときに、若い気のいい兄ちゃんと知り合いました。迷って疲れ果てている私にジュースをおごってくれた上に、さらに一緒にセルビスに乗りホテルへの道を教えてくれた親切な兄ちゃん。
 しか〜し、詳しく話していると、どうも彼の家はギザのピラミッドの前だといいます。そう、あのラクダ隊の家だったのです。
「何度もエジプトに来てるんだ。アラビア語も勉強してるんだ。ぜひ、うちへ遊びにおいでよ」
 すでに日もとっぷりくれていたこの時間、今からか?と思う私。さらに、サービストークは続き
「夜のピラミッドをラクダで散歩しようよ〜」
 固まるNadia。やぱりそれかぁ。
 文脈的には、本当に親睦をはかりたいという感じでしたが、すでに「ラクダ」のひと言で引いてしまっている私。
「と、ともだちがホテルで待ってるから……」
 結局、逃げることにしました。ちなみにその兄ちゃんの顔は、兄貴と旅行した時の、あのタクシーに乗り込んできた人物に、気のせいか似ていました。ただ、真実はいまだ不明です。